そしてその夜、俺は再び、あの夢を見ることになる。 


空気が重く、どす黒い空間。 あの夢だ。 

後ろに気配を感じ、振り返る。 

俺「!!!!!!!!」 

俺は一瞬にして総毛立った。 そこには、前の夢で見た青年が居た。 しかし青年の目がおかしかったのだ。 

片目がない・・・。 



俺「・・・・・・」 


俺は青年の異様な風貌に、固まってしまう。 

青年は必死に、また何かを訴えている。 

だが・・・相変わらず聞き取る事が出来ない。 

次第に青年の顔がぼやけていく・・・。 そして、俺は目が覚めた。 

・・・・・・ 


俺はさっきの夢について考えた。 同じ夢を何回も見る、これはC菜の夢と同じ。 そして、あの青年、どこかで会ったことがある気がする。 俺は必死に、昔の記憶を頼りに、一致する人が居ないかを考えた。 

・・・ 

・・・ 


・・・ 


・・・! 


あっ! 


俺は思わず声に出していた。 



あの青年・・・。 




あれは・・・・・・A男だ。 まさか、A男に何かが? 胸騒ぎの消えない俺は、A男に電話をしてみることにした。 そういえば、A男と電話するのなんて何年振りだろうか 。A男から一回、電話が掛かって来たことはあった。 そう、俺が加奈子さんの噂に巻き込まれた時だ。 あの時、A男は何の用事だったんだろうか。 そんなことを考えながら、ダイヤルを回す。 

・・・ 

・・・ 


「お掛けになられた番号は、現在、使われておりません」 

ダメか・・・。 

これはもう、直接、A男の家へ行ってみるべきだろう。 俺は授業が終わった後に、A男の家へ行ってみることにした。 A男の家は、住宅街のかなり奥まった所にある。 家は一軒家だが、かなり古びた造りで、平屋だった記憶がある。 小学校時代に、何度も訪れていたため、難なく訪れることが出来た。 

しかし、俺はA男の家の前で全く身動きが取れなくなっていた。 

俺「・・・・」


元から古びた造りだったが、これ以上ないくらい朽ちていた。 どう考えても、人が住んでいるとは思えない。 予想通り、インターフォンは押しても鳴らなかった。 仕方なく、かなり強めにノックをする。 

ドンッ!ドンッ!ドンッ! 

・・・ 

・・・ 


反応が無い。 

引き戸のノブに手を伸ばし、回してみたが、やはり鍵は掛かっていた。 


どうしようか・・・とりあえず裏口に回ってみよう。 

A男の家は正反対の箇所に裏口があった。 

そこから入ればA男の部屋が近いから、昔はよくそこからお邪魔したっけ。 雑草がぼうぼうに生えている庭をかきわけ、俺は裏口へと向かった。 

俺「え?」 

俺は裏側の壁を見て固まってしまった。 



口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄 



何だ・・・これ? 


裏側の壁いっぱいにペンキのようなもので文字が書かれている。 ふ、と裏口に目を移すと、そこには大きく赤い色で一文字が書かれていた。 


 



・・・あまりの異様さに声が出ない。 


俺は必死になってその場から逃げた。怖かったのだ。 何だよあれ・・・。意味分かんないよ ...

俺は先ほど見たものを必死に見なかったことにしようとした。 実際、見てしまったことには変わり無いのに ...

そんな中、E子と水族館へ行ったデートの帰り。 

俺「今日、楽しかったね」 

E子「うん」 


俺「E子さ・・・最近元気がない時が多いけどどうしたの?」 


E子「・・・・・・」 


俺「何か悩みがあるなら言って欲しいんだ、もしかして何か俺に不満がある?」 


E子「ううん、俺君のことは大好きだよ」 


俺「そっか、何かあったらすぐ言ってね」 


E子「俺君・・・」 


俺「ん?」 


E子「ずっと一緒に居たいよ・・・」 


俺「勿論、俺だってそうだよ」 


何故か、E子は少し涙ぐんでいる。 


E子「一緒に居たいよ!居たいよ!」 


そう告げると、E子は堰が切れたかのように泣き始めた。突然のことに、驚きを隠せない俺。 


俺「も、勿論だよ!」 


E子「うう・・・うわーん!」 


何か不安なことがあったのだろうか、俺はE子を優しく抱き締めた。 


俺「大丈夫・・・大丈夫だから」 


E子「・・・・・・・」 


ひとしきり泣いた後、E子はそっと俺から離れていった。 


E子「ありがとう」 


俺「ううん、大丈夫?」 


E子「もう・・・・・・」 


俺「え?」 


E子「ううん、今日はありがとう!!またね!!」 


E子は俯きながら去って行った。 


な、何だったんだ・・・。 何か不安に思っていることがあれば、俺に話してくれれば良いのに・・・。 心のモヤモヤはあるけど、俺は何も出来ず仕舞いだった。 

そして、E子との付き合いが半年になったある日。 

俺は、E子からプレゼントを貰った。 

俺「これ・・・何?」 

E子「亡くなった母の懐中時計だよ!」 


俺「え!い、いいよ!こんな大事なもの!」 


E子「いいの・・・、貰っておいて」 


俺「う、うん、分かった」 


E子「俺君」 


俺「何?」 


E子「今までありがとう、楽しかったよ」 



俺「え!?」 


突然のことに、頭が動転する。 

これは・・・別れを告げられているのか。 


俺「それって・・・別れたいってこと?」 


動揺しながらE子に尋ねる 


E子「・・・・・・」 


俺「一体なんで!?ずっと一緒に居ようって二人で言ったじゃないか!」 


E子「ごめんね・・・」 


俺「なんで・・・」 


E子「どうか理由は聞かないで、お願い」 


俺「・・・・・・」 


E子「本当に本当に楽しかった!さようなら・・・!」 


E子は走り去るように去って行った。一度も振り返ることなく。 残された俺は呆然としていた。あまりの展開に頭が付いていかない。 別れる理由が全く思いつかない・・・何でだよ。 

翌日から俺は抜け殻のように毎日を過ごした。授業はかろうじて出席しているが、サークルに行く気にはならない。 食事もあまり取らなくなり、目に見えてやつれていった。 F男やサークルのメンバーから電話やメールが何度も届いたが、しばらく行かないとだけ返事をして切っていた。 そして、授業と授業の合間の休み時間。 

俺「・・・・・・」 

F男「おい」 

俺「・・・・・・」 

F男「おいってば!」 

俺「ん?何だF男か・・・」 


F男「何だじゃないだろ!!皆心配してるぞ!」 


俺「・・・・・・」 


答える気にならなかった。 


F男「E子ちゃんも音信不通だし、どうなってんだよ!」 


俺「え?E子が?」 


F男「そうだよ、お前がサークル来なくなった一緒のタイミングで連絡取れなくなったんだよ」 これは、どういうことだろう。 

F男「何かあったのか?」 


俺「・・・・・・別れたんだ」 


F男「え?」 


俺「E子と別れたんだよ」 


F男「そ・・・そうだったのか」 


俺「・・・・・・」 


F男「でも、音信不通ってのはおかしいんじゃないか?」 


それは俺も思うところだ。気まずくてサークルに来れないのはまだ分かる。しかし、全く電話にもメールにも返事をしないというのは異常だ。 


F男「とりあえず、・・・まあ元気になったら顔を出してくれ」 


そう告げてF男は去って行った。 


E子・・・どうしたんだろう。未練が無いと言ったら嘘になる。 


なにせ、あまりにも納得がいかない別れ方だ。 

E子は俺に不満は無いと言っていたし、それに別れる人に対して大事な形見など渡すだろうか。 


・・・あまりにも不可解。 


ちょっと、E子を探してみよう。俺は行動を移すことにした。 


当然のことながら、携帯は繋がらないので、俺はE子のゼミに行ってみることにした。 適当な人を捕まえ、E子について聞いてみる。 


俺「あの、E子さん居ますか?」 


ゼミ生「いやー、最近見かけないね」 


俺「そうですか」 


他にも色んな人にE子のことを聞いて回ったが、E子の近況を知っている人は皆無だった。 放課後に、直接独り暮らしのE子の自宅を訪ねてみたが、不在だったので管理人さんに聞いてみることにした。

管理人「○○さんねぇ、しばらく帰って来てないのよ」 


俺「え、帰ってもいないんですか?」 


管理人「そうよ、そろそろご実家に連絡しようかと思ってるの」 


俺「そうですか・・・」 


俺は頭を抱えた。別れた相手にここまでやるのは下手したらストーカーかもしれない。 しかし、やっぱりあれだけ好きだったのだ、悩んでしまう。 

しかし、どうすることも出来ず、いたずらに日数だけが過ぎていった。 


そして、ゼミの授業が終わった時間 


D子「俺君」 


俺「ん?何?」 


D子「貴方がお付き合いしていた子について少し話があるんだけど」 


俺「え?E子?何か知ってるのか?」 


D子「何も聞かなかったの?」 


俺「何もって・・・、何があったかすら分からないし、何も言ってくれなかったんだ」 


D子「・・・成程、そういうことね」 


俺「何なんだよ、どういう意味だよ」 


D子「どの道、抗えるとは思えないけど」 


俺「は?」 


意味が分からない。 


D子「貴方達が昔に、あの子にした約束、覚えてないの?」 


俺「あの子?約束・・・?」 


D子「・・・知らない方が幸せなこともあるのよ」 


そう言って、席を立とうとするD子。 


俺「ま、待てって!!」 


D子「A男君も・・・」 


俺「A男・・・?」 


予想外の名前に俺は驚いた。 


D子「もう遅いの」 


そう言ってD子は去って行った。 


残された俺は、何もかもが分からず呆然としていた。 


分からない・・・分からない。 



それ以来、結局E子は見つからなかった。 そして何故か、C菜の夢を見るようになった。 だが、幼少の頃に見ていた夢とは違い、C菜がただ俺をじっと見るだけ。何も発さない。 一週間に数回、C菜の夢を見る。 今日もC菜が俺を見てくるかもしれない。明日かもしれない。明後日かもしれない。 何も言わずに、じっと見てくる。 真っ直ぐ俺を見据えて。 

長々となってしまったが、読んでくれた人ありがとう。 

謎ばかりが残ってしまったが・・・俺も未だに分からないんだ。