俺「・・・・・・」 


振り返りたくない。でも・・・、見ないと。 

俺はゆっくりと振り返った。 


俺「・・・え?」 


振り返ると、そこに居たのは青年の姿だった。 


俺「C菜じゃ・・・ない?」 


青年は虚ろな目をしていたが、しっかりと俺を見据えている。 


 青年「・・・・・・」


 青年が何かを言っている。 何を言っているんだろう、全く分からない。 しかし、青年は俺に何かを訴えるようにまくしたてている。 聞き取りたくても、聞き取れない・・・。 次第に、青年の顔がぼやけていく・・・。 そうして俺は目が覚めた。 


 俺「・・・・・・」


 C菜の夢じゃ・・・ない?何だろう・・・? 俺は何だか、妙な胸騒ぎがした。 あの青年・・・。 


 先輩「おーーーい!朝メシの準備するぞーーー!」 


 俺「あ!!はーい!!!」 


 一気に現実世界へと戻された俺は、朝食の準備に駆り出されることになった。 しかし、あまりにも不思議な夢。 合宿が終わるまで、そのことが常に頭の片隅にあった。 合宿が終わり、大学の日常が戻って来た。 サークルのメンバーに俺とE子が付き合い始めたことを告げると、F男を除いて皆驚いていたが、祝福してくれた。 E子とは毎日会って色んな話をした。バカみたいな話をして笑い転げたり 色んな場所にも行った。本当に幸せだった。 愛する人が居ると、生活に潤いが出てくるというもの。 勉学にも精が出て、成績は大きく上昇。全てが順調だった。 そんな順風満帆な中、俺はゼミへと入り、本格的に卒業へ向けて準備をすることになった。 そんな中ゼミの最初の授業で、とある人に出会うことになる。 


俺「ん・・・?」 


ゼミのメンバーが一人一人自己紹介をしていく。 俺は、ある女子に注目した。 


俺「あれ・・・どっかで見たことがあるような・・・?」 


長いサラッとした黒髪に、清楚そうな容姿と大人しそうな雰囲気。 美人と言っても良いだろう。 どこかで出会った気がするのだが・・・思い出せない。 


んー、誰だっけか。 


謎が解けないまま、3人組となり、課題を遂行していく時間になった。 

奇しくも、先ほどの女子と一緒の組だ。 

3人でぎこちなく自己紹介を行い、課題を進めていったが、一人がトイレに行くために離席した。 残されたのは、あの女子と俺。 


俺「あ、初めまして、俺、○○と言います、よろしくお願いします」 


???「さっきも聞いたわよ」 


俺「・・・・・・」 


なんという、とっつきにくい奴だ 


それにしても、間近で見ると・・・ 

やはりどこかで会ったことがある。 


???「それに初めましてじゃないでしょ」 


俺「え?」 


???「忘れたの?同じ小学校だったD子よ」 



俺の記憶の片隅に居たD子が、像を結び始める。 


俺「あっ・・・!」 


D子「久しぶりね」 


こんな所でD子と再開するとは・・・。 

嫌でもC奈の夢のことが思い出される、D子は俺を助けてくれた存在なのだ。 


俺「あの時は、ありがとう」 


D子「何が?」 


俺「お守り、助かったよ」 


D子「いえ、でも」 


俺「え?」 


D子「やっぱり終わってないみたいね」 


俺「は?」 


終わってない・・・どういう意味だ? 

色々と聞きたいことはあったが、離籍していたメンバーが戻って来たので、話は中断された。 その後も順調に大学生活を続けていった俺、しかし気がかりなことが出来た。 


E子「・・・・・・」 

俺「どうしたの?」 


E子「んーん!なんでもない!」 


俺「そうか?」 


E子が時折、暗い表情を見せるようになったのだ、今まではそんなこと無かったのに。 

それは日が経つにつれ顕著になっていき、周囲の人も気付いているようだった。 

F男は、「何か悲しませたんじゃねーの!」と言っていたが、俺はまるで心当たりが無い。 そんな中、E子の家へ行くことになったある日。 


E子はアパートの3階に住んでいる。どこにでもありそうな安い感じのアパートだ。 


俺がアパートの中へ入っていくと、3階から声が聞こえてきた。 


???「  して    の」 


ん? 


よく耳を澄ましてみたが、どうやらE子の声のようだ。 


E子「  れ  じょ う  き  と   な  で 」 


俺「???」 


E子「 な  の と  は  すき  も」 


距離が離れているから、断片的にしか聞こえない。 


E子「そ ち  く  と  きな い」 


何を言ってるんだ・・・? 


俺は3階のE子の部屋へと急いだ。 

部屋をノックし、E子を呼び出す。 

しかし、返事がない。 


俺「???」 


再度ノックをするが反応がない。 


俺「開けるぞ?」 


俺は痺れを切らし、ドアを開けた、鍵は掛かってなかった。 しかし、中へと入った瞬間、俺は異変に気付いた。 


俺「うっ・・・」 


何だ・・・?部屋が異常なくらいに寒い 


俺「おい!E子!?」 


俺は必死にE子を探した。  リリビングには居ない・・・?どこだ? 


トイレ 


浴室 


・・・・!! 


いた、E子だ。 


洗面台のシンクに突っ伏すように倒れこんでいる 


俺「E子!俺だよ!大丈夫か!!」 


必死にE子をさすり、気付けを行う。


E子「・・・ん」 


俺「あ・・・」 


どうやら気付いたようだ 


E子「俺君・・・」 


俺「大丈夫か?何があったんだ!?」 


E子「ちょっと・・・貧血起こしちゃったみたい・・・えへへ」 


俺「とりあえず、場所を移して休もう」 


E子「うん、ありがとう・・・」 


それにしてもこの部屋全体が異常なまでに寒い 。本当に寒すぎる


ただ室温が低いだけでなく、・・・なんというか心に重く圧し掛かるような寒さというか 


・・・ 


・・・ 


・・・? 


以前、これと同じような感覚を体験した気が・・・? 



俺「一旦、外に出よう」 


本来ならベッドに寝かせるべきなのだが、俺は何かの危険を感じ E子を抱えて公園のベンチまで連れて行った。 



E子をベンチへと座らせ、俺は横へ座る。 


温かい飲み物を購入し、E子へと手渡す。 

最初は顔が真っ青だったE子だが、徐々に落ち着きを取り戻したようだ。 


俺「E子?大丈夫か?」 


E子「・・・うん、大丈夫だよ」 


しかし、E子が貧血持ちだったなんて、初耳だ。 


俺「貧血・・・今まで無かったけど急に?」 


E子「うん、ちょっと・・・ふらふらっときちゃって、でも大丈夫だよ」 


俺「そうか・・・」 


俺「E子、誰かと話してなかった?」 


E子「え?」 


俺「誰かと話してた声が聞こえたんだけど」 


E子「あ、うん、ちょっと来客中でね、俺君来る時間だから急いで帰って貰ったよ」 


俺「そうか・・・」 


E子「・・・・・・」 


何だろう?何か違和感を感じる。 


E子「ごめんね・・・今日はもう、休ませて貰っていいかな?」 


俺「あ、うん、そうだよね」 


E子「せっかく来てくれたのに、ごめんね」 


俺「部屋まで送ろうか?」 


E子「ううん、ここで大丈夫」 


俺「そうか、じゃあまた、元気になったらね」 


E子「うん」 


俺は帰る際、違和感の正体について考えた。 


あの寒さ・・・エアコンを付けているわけではないのに、あの寒さ・・・? 


E子は来客中と言っていたが、俺がアパートに足を運んだ瞬間、声が聞こえた

E子の部屋に行くまで、あの会話を聞いてから、ものの数分だ。 


そんな早さでアパートの外に出ることが出来るか・・・? 


まあ、階段は二つあるから、俺が片側を上っている間に逆から急いで降りた可能性もあるが。 


・・・ 


俺は妙な違和感を抱えながら、家へと帰った。