俺「ここか・・・」
指定されたのは、学校近くの喫茶店。午後5時。 中へと入り、教えられた席を探す。 客は殆ど居なかった。
俺「右奥のソファー席・・・あ、あれか」 席へと座り、待ち人が来るのを待つ。 俺「来ないな・・・」
時間が10分、20分と経って行く もしかして、すっぽかされたか? そんな疑念も沸き始めた時 、
???「お待たせしました」
俺「あ」
声を掛けられ、振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
???「噂を詳しく知りたい、というのはあなたですか?」
俺「はい、えっと○○と申します」
???「E男です」
男は俺の向かい側へ座りった。 中肉中背、大人っぽく、顔立ちは整っているのだが、暗い表情をしていた。
俺「あの、噂を詳しく知っていると聞いたのですが」
E男「加奈子は・・・俺の彼女です」
俺「え?」
想定外の言葉に、俺は驚きを隠せない。
E男「彼女だった・・・というのが正確な言葉だけど」
俺「あの・・・その、失礼ですが」
別れたのか?と聞こうとしたが、流石に聞けなかった 。
E男「いや、居なくなったんだよ、急に」
俺「居なくなった?」
E男「うん、数ヶ月前に、忽然と」
話を詳しく聞いてみると、加奈子さんは数ヶ月前に行方不明になってしまったらしい。 電話をしても全く通じず、住んでいた寮へ行って管理人に聞いても、ずっと帰って来て居ないとしか聞かされなかったらしい。
E男「これを、見て欲しい」
E男がカバンの中から取り出したのは、一冊の日記だった。
E男「加奈子の日記です、中を見てください」
人の日記を見るのは、ちょっと躊躇ったが、俺は読んでみることにした。
○月○日 あー!もう暇!! しかも盲腸で入院とか本当にツイてないよね・・・ あまりに暇だから、これから日記を書くことにする!!
どうやら、加奈子さんは盲腸で入院している際に、この日記を書き記したらしい。
○月○日 今日、男の子と仲良くなったんだ!! 笑顔がとっても素敵な男の子!! でも、名前を聞いても、歳を聞いても、「知らない」って言うの。 何だか変な子ね。 だから勝手に、○○ちゃんと呼ぶことにしたの!!
○月○日 ○○ちゃんは、自分からは喋ることが無い子。 でも、いつも寂しい、寂しいって言ってる。 お母さんとお父さんがお見舞いに来てくれるトコも見たことがない。 可愛そうに。 「お姉ちゃん一緒に居てくれる?」って聞いて来るから 「もちろんだよ!」と答えた。○○ちゃんは嬉しそうだった。 そこから先は、とりとめの無い日記になっていた。 病院のご飯がまずい、とか、Eがお見舞いに来たとか、手術怖かった、とか。 そんな日記も、退院の日が書き記されていた。
○月○日 今日で退院!退屈な入院生活ともオサラバ!! 最後に○○ちゃんに会いたかったけど、会えなかったな。 そういえば、あの子がいつも来るから、何号室に入院してたのかも知らないままだったな。 早く、退院出来ると良いけど。 そこから先は、退院した後の生活が記されている。
○月○日 何だかすっごく怖い夢を見た。 目がない○○ちゃんが、私を連れて行こうとする夢だ。 寂しい、寂しい、って言いながら私を引っ張っていこうとする。 怖いなー。
○月○日 毎日、○○ちゃんの夢を見る。 怖い。
○月○日 寝るのが怖い、また○○ちゃんが夢に出てくる。
○月○日 鏡の前に○○ちゃんが居た。
○月○日 どこへ行っても、○○ちゃんが付いてくる。 助けて。
日記はそこで途切れていた。
俺「・・・・・・」
読み終えた俺は絶句していた、言葉に表せない。
俺「・・・何故、その、加奈子さんが夢に?」
俺は思っていた疑問を口に出した。
E男「分からない、でも俺も夢を見たんだよ」
俺「E男さんもですか?」
E男「ああ、既に現実に加奈子が現れている」
俺「じ、実は俺もなんです!!」
俺は今まであったことを洗いざらい話した。Aのこと、現実に現れた加奈子さんらしき人のこと。
俺「どうにか止める方法は無いのでしょうか?」
E男「・・・・・・」
C菜と同じか… 口を閉ざすE男に、俺は落胆を隠せなかった。
E男「もう、終わるよ」
俺「え?」 E男「・・・・・・」
そう言って席を立ったE男を俺は引き止める。
俺「待って下さい!」
E男「止めなくていい、それと・・・」
俺「え?」
E男「夢を見ていない君が何で・・・そこだけが分からない」
その言葉を残し、E男は俺の分の金も置き、去って行った。
俺「・・・・・・」
残された俺はしばらく、呆然としていた。 それからと言うものの、俺の前に加奈子さんらしき人が現れることはなくなった。 加奈子さんの噂は下火になり、しばらく経つと、誰も話さなくなった。 Aはそれでも登校して来ることはなく、E男とは彼女を通しても連絡が取れなくなってしまった。 音信不通になってしまったらしい。 そんなある日、意外な人から電話があった。A男だ。
A男「よう」
俺「A男!久しぶりだな!」
A男「ああ」 俺「急にどうしたんだ?」
A男「・・・・・・」
俺「ん?どうした?」
A男「C菜のこと、覚えてるか?」
俺「勿論だろ」
A男「何か変わったことはないか?」
俺「う・・・あったな、C菜と関係あるかは分からないが」
A男「聞かせてくれ」
俺は今回の一件を詳しくA男に聞かせた。
A男「・・・・・・」
俺「何だ?どうした?」
A男「そうか・・・」
俺「え?何?」
A男「いや、何でもない、またな」
そう言って、A男は一方的に電話を切ってしまった。 何だったんだろう・・・?
それ以来、小学生の間、C菜が俺の夢に出てくることはなかった。 もちろん、外泊をする際は、お守りを持ち出していたことは言うまでもない。 それからは、中学時代は何事もなく時が過ぎていき、無事に高校に入学した。 A男とは疎遠となり、D子は小学校5年の時に何処かに引っ越していった。 高校生活も、初めて彼女が出来たり、初体験をするなど、中々に充実した生活を送っていた。
そんな生活に陰りが見えたのは高校2年生の春。
彼女「ねえねえ、加奈子さんの噂って知ってる?加えるに奈良の奈に子って書くの」
俺「は?何それ」
彼女「夢でね、加奈子さんっていう女の子が現れて、死者の世界に連れて行こうとするの。寂しい寂しいって言いながら手を引っ張って来るんだって。」
俺「ふーん」
彼女「その子ね、目と歯が無くて、真っ黒な空洞なんだって!」
俺「う・・・」
一瞬、まさかC菜のことかと思ったが、C菜は加奈子なんていう名前ではない。
彼女「で、それを拒否し続けると、こっちの世界にやって来て直接連れて行こうとするんだって!」
俺「くだらない話だな」
彼女「あ、信じてないでしょ!」
俺「よくある単なる噂でしょ」
どうせ、どこにでもある都市伝説の一つだろう、気にも留めなかった。 そんなある日
友人A「なあ、俺、加奈子さんの夢見ちまったんだ・・・」
俺「は?」
聞いてみると、俺が前に彼女に聞いた加奈子さんの夢を友人が見てしまったらしい。
俺「気にすんなって、どうせ怖い話し聞いちまったから夢で出てきただけだよ」
この友人Aは凄く良い奴なんだが、かなりのビビリなのだ。
友人A「そ、そうかな」
俺「そうだって、あんまり深く考えるなよ」
友人「そうか・・・」
しかし、本当のことを言えば、俺は妙に引っかかりを感じていた。 その晩、俺は悶々と噂のことを考えていた。 小学生以来、何年も見ていない夢、それとそっくりな内容の夢が噂になっている。 真実かは分からないが、友人は実際に見てしまったとまで言っている。
俺「そうだ!お守り!!」
俺は常に枕下に入れておいたお守りを確認した。
俺「・・・・・え?」
お守りは確かにそこにあった。しかし、既にお守りの体は成していなかった。 お守りは、引きちぎったように二つにされており、赤い液体が付着していた。 俺は、顔面が真っ青になりお守りを放り投げた。
俺「ど・・・どうして」
その日は一睡も出来なかった。 翌日、俺は生きた心地のしないまま学校へと向かった。 そして学校の休み時間 俺は昨晩のショックが抜け切らず、頭を抱えていた。 どうしてお守りがあんなことに? 中学の時は何事も無かったのに何で? もしかして加奈子さんの噂と関連があるのか? 疑問は尽きない。
クラスメートA「加奈子さんの噂って知ってる?」
クラスメートB「知ってる知ってる!」
俺は一瞬ビクッとなったが、クラスメートの会話に耳を傾けた。
クラスメートA「連れていかれるって噂だけど、B組のAさんは夢を見たって言ったっきり学校に来てないんだって!」
クラスメートB「こわーい!!」
俺「俺にもその話し、聞かせてくれないか」
クラスメートA「えっ」
突然の俺の登場に面食らった様子だったが、聞かない手はない。
クラスメートA「でも俺君ってそういうの信じないんじゃなかったっけ?」
俺「うん、でもまあ、ちょっと気になって」
クラスメート「ふーん、まあ良いけど」
こうして俺は、加奈子さんの噂の内容を聞いた。要約するとこうだ。
1、名前は加奈子さん
2、噂を聞いた人の夢に現れる
3、中学生か高校生くらいの女の子
4、長髪黒髪でチェックのシャツにスカートを履いている
5、眼球が無く、真っ黒であり、歯も舌もない
6、手を引っ張って連れて行こうとする
7、何日も夢を見ると、現実に現れて連れに来る ・・・
ん? 俺は違和感を感じた。 俺が見ていた夢と比較してみてどうだろうか。 5、6は正に俺の見ていた夢と合致する。 しかし、1、2、3、4が不可解だ。まず、C菜は加奈子なんて名前じゃない、更にはクセっ毛のC奈と比べて容姿がかけ離れている。 仮に加奈子さんの夢が俺の見ていた夢と同じだとしても あくまでC菜は俺とA男を連れて行きたいのであって、他人の夢に現れる意味が分からない。 そして、中学生くらいの女の子・・・C菜が亡くなった時は小学校4年生だ、中学生、ましてや高校生と見間違える可能性は低い。 うーん、考えれば考えるほど分からなくなる。 俺の頭の中はクエッチョンマークだらけだった。
俺「何で加奈子さんの噂って言われてるの?」
俺は率直に尋ねてみた。
クラスメート「知らない、夢に出てくる女の子が加奈子さんっていうんじゃないの?」
俺「うーん」
C菜の夢とは相違点が多いものの、全く同じ部分もある。 目と舌と歯が無くて、手を引っ張って行く少女・・・これは偶然の一致なのか? 更には、引きちぎられたお守り・・・。 ダメだ、考えれば考えるほど分からなくなる。 様々な疑問を抱えたまま、俺は帰路に着いた。 その日、お守りが無くなったことにより、夢を見てしまうのではないかと危惧したが 夢を見ることはなかった。 それからは、何事もなく日常が過ぎていった。 C菜の夢を見ることもなく、平和だった。 しかし、相変わらず加奈子さんの噂は続いていたが・・・。 そんなある日を境に、友人Aが学校に来なくなった。 まさか・・・とは思ったが、さしたる証拠も無いのに安易な考えは出来ない。 そんな心配を他所に、クラスメート達は勝手に噂をしている。
クラスメートA「絶対、加奈子さんに連れて行かれたんだよー」
クラスメートB「夢を見たって言ってたもんねー」
クラスメート達の無神経さに軽い苛立ちを覚えたが、確かに友人Aのことは気になる。
俺「調べてみるか」
しかし、友人と言っても携帯の番号やアドレスを知っているほどの仲では無かったため、まずは友人Aと親しかったクラスメートに話しを聞くことにした。
俺「なあ、最近Aを見ないけど風邪か何かか?」
クラスメートC「俺も分からねえ、メールの返事も無いし電話しても出ないんだよ」
俺「そうか、ありがとう」
これは担任の先生に聞いてみるのが早いだろう。
俺「先生、最近Aって何で休んでるんですか?」
先生「んー家庭の事情だ」
俺「家庭の事情?」
先生「ああ、落ち着いたら来るんじゃないか」
俺「そうですか」
そう言いつつも、俺は何か釈然としない気持ちを抱えていた。 そこで俺は直接Aの家へ行って聞いてみることにした。 何でここまでしているのか俺にも良く分からない。 でも、やはりあの噂はあまりにも気になる。 ここか・・・ 翌日、俺はクラスメートに住所を教えて貰い、放課後の時間を使ってAの家までやって来た。 Aの家はさほど学校から離れておらず、ごく普通の住宅街にあった。 一軒家だったが、かなり古い作りで、所々がひび割れている。
俺「A、居るかな、居たとしても何を話せば良いんだろうか」
突然押しかけてきて、迷惑だよなあ・・・ そう思いながら、玄関のチャイムを押す。 ・・・ ・・・ 返事がない。
俺「留守かな」 その後何度も押しても、誰かが出てくることはなかった。 ふ、と家を見上げてみる。
俺「ん?」
窓際の所、女性が立っている。 あんなにチャイム鳴らしたのに何で出ないんだろうか。 ずっと窓際を見ていると、女性がこっちを向いた。
俺「う・・・」
曇りガラスのせいでぼやけて見えないが、面と面で向き合った瞬間、なんとも言えない寒気がした。
俺「え?」
俺と目が合った後、女性はなぜか、腕を伸ばし、顔と腕をガラスに張り付けた。 掌と腕を、べったりと。
俺「お、おじゃましました!!」
あまりの不気味さに、俺は聞こえるはずもないのに声を出して、逃げるように去った。 何なんだよアレ・・・おっかねえ。 Aの姉か妹だろうか?何であんなに鳴らしたのに出てくれなかったんだろうか。 尤も、あんな不気味な人が出てこられても困るが・・・。 翌日、気になった俺はクラスメートに尋ねてみることにした。
俺「なあ、Aって姉か妹っていたっけ?」
クラスメートC「いやーアイツは一人っ子のはずだぞ」
俺「そ、そうか」
まあ、母親という可能性も0ではないが・・・ そこから何日も経過したが、相変わらずAは学校に登校して来なかった。 そして、ある日の晩 ちょっと小腹が減っていた俺は、コンビニまで自転車で走ることにした。 時間的には結構な夜中だったが、コンビニまですぐだし、気にしないことにした。 そんな中、コンビニへ向けて軽快に自転車を走らせている最中、後ろから大声で呼び止められた。
???「そこの君!!止まりなさい!!!」
俺「え?」
振り向いて見ると、自転車に乗っている警官だ。 俺は立ち止まり、警官が近づいてくるのを待った。警官はかなり、怒った顔をしている。 やっば・・・、夜中に出たから怒られるのかな...
警官「二人乗りなんてしちゃダメじゃないか、そんなスピード出して!!」
俺「え?」
警官「後ろの子は・・・あれ?」
俺「俺、二人乗りなんてしてないっすよ」
警官「そんなはずはないだろう?女の子が後ろからしがみ付いているのが見えたぞ」
一瞬、ゾワッとした・・・そんなハズはないだろう。しかし警官は真剣な表情だ。
警官「み、見間違いか・・・いや、しかし確かに」
警官はブツブツ言っていたが、俺は気が気ではなかった。
警官「と、とりあえず夜中の外出は控えるように!」
その後、軽く小言を言われて俺は家に帰された。 なんと言うタチの悪い冗談なんだろう きっと、俺を怖がらせて夜中の外出をさせないようにしたんだろうな! きっとそうだ! ・・・・・・ 俺の心は全く晴れなかった。 俺の中で何かが、ヤバイ、と警告していたのだ。 確実に俺の周囲で何かが起きている。 放課後、俺は頭を抱えていた。 不可解な現象、もはや怪異と呼べるような内容が立て続けに起きている。 そしてAについてだ。 これはもう、何かしらの事態がAに起こったと考えるのが妥当だろう。 仮に家庭の事情だとしても、友人達にメールの一つも寄越さないのは異常だ。 それに、あの異様な家・・・。
???「なーにブツブツ言ってんの?」
俺「うわっ!!な、なんだ○○か」
彼女「えへへー、驚かせちゃった?」
突然の登場に面食らったが、そこには彼女が立っていた。 俺が机に向かってブツブツ言ってるのをずっと観察してたらしい。 なんという悪趣味な・・・。
俺「あ、そうだ!」
俺は彼女に協力して貰うことにした。
彼女「んー?」
俺「加奈子さんの噂って前に○○が教えてくれたよな、それについて詳しく知ってる人を探して欲しいんだ」
彼女「えー、何で?全然興味無さそうだったのに」
俺「ん、まあ、ちょっと色々とな」
彼女「いいよー!探しておくね」
俺「サンキュー」
彼女は顔がかなり広い。これで新しい情報も入ってくるかもしれない。 俺は俺で行動を移した。 翌日から、クラスメートを含め、様々な人に噂について聞いたが、芳しい結果は得られなかった。 校内の知人という知人に話を聞いたが、噂は聞いたことがある、という程度の情報しか得られなかった。 ~組の○○さんが居なくなったとか、○○さんが夢を見たらしい、等は聞けたが あまりにも信憑性に欠ける。 そんな八方塞の中、知人からとある人を紹介された。他校のD男という男だ。 オカルト研究会に所属しているらしい。 自分の高校のオカルト研究会は訳の分からん新聞や冊子を作っていて あまり近寄りたくないイメージだったが、背に腹には変えられないだろう。 しかも他校かよ・・・まあ仕方ないか。 俺は知人にアポを取って貰い、放課後にD男の高校のオカルト研究会を訪ねる約束をした。
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